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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)3851号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人逸見惣作の上告趣意について

刑法一五六条の虚偽公文書作成罪は、公文書の作成権限者たる公務員を主体とする身分犯ではあるが、作成権限者たる公務員の職務を補佐して公文書の起案を担当する職員が、その地位を利用し行使の目的をもってその職務上起案を担当する文書につき内容虚偽のものを起案し、これを情を知らない右上司に提出し上司をして右起案文書の内容を真実なものと誤信して署名若しくは記名、捺印せしめ、もって内容虚偽の公文書を作らせた場合の如きも、なお、虚偽公文書作成罪の間接正犯の成立あるものと解すべきである。けだし、この場合においては、右職員は、その職務に関し内容虚偽の文書を起案し情を知らない作成権限者たる公務員を利用して虚偽の公文書を完成したものとみるを相当とするからである(昭和一〇年(れ)第一四二四号同一一年二月一四日大審院判決、昭和一五年(れ)第六三号同年四月二日大審院判決参照)。

これを本件についてみると、原判決の是認した第一審判決の判示認定事実によれば、被告人は、その第一の(一)及び(二)の犯行当時、宮城県栗原地方事務所において同地方事務所長斎藤倫一の下にあって同地方事務所の建築係として一般建築に関する建築申請書類の審査、建築物の現場審査並びに住宅金融公庫よりの融資により建築される住宅の建築設計審査、建築進行状況の審査及びこれらに関する文書の起案等の職務を担当していたものであるところ、その地位を利用し行使の目的をもって右第一の(一)及び(二)の判示の如く未だ着工していない鈴木源二の住宅の現場審査申請書に、建前が完了した旨又は屋根葺、荒壁が完了した旨いずれも虚偽の報告記載をなし、これを右住宅の現場審査合格書の作成権限者たる右地方事務所長に提出し、情を知らない同所長をして真実その報告記載のとおり建築が進行したものと誤信させて所要の記名、捺印をなさしめ、もってそれぞれ内容虚偽の現場審査合格書を作らせたものであるから、被告人の右所為を刑法一五六条に問擬し、右虚偽の各審査合格書を各関係官庁並びに銀行に提出行使した所為を各同法一五八条の罪を構成するものと認定した第一審判決を是認した原判決は正当であるといわなければならない。所論引用の当裁判所の判例は、公務員でない者が虚偽の申立をなし情を知らない公務員をして虚偽の文書を作らせた事案に関するものであって、本件に適切でない。論旨は理由がない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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